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福岡高等裁判所那覇支部 平成8年(行コ)2号 判決

沖縄県沖縄市胡屋五丁目一番一一号

控訴人

松川忠吉

右訴訟代理人弁護士

新垣勉

松永和宏

沖縄県沖縄市字美里一二三五番地

被控訴人

沖縄税務署長 糸洲朝永

右指定代理人

大須賀滋

畑中豊彦

安里國基

武藤彰

呉屋育子

郷間弘司

荒川政明

松田昌

古謝泰宏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対し、平成二年七月一〇日付けでした以下の各処分をいずれも取り消す。

(一) 控訴人の昭和六二年分の所得税の更正処分のうち、事業所得金額三五五万六一六〇円、納付すべき税額五万二二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 控訴人の昭和六三年分の所得税の更正処分のうち、事業所得金額三五八万六五六〇円、納付すべき税額四万七五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、審査裁決により一部取り消された後のもの)

(三) 控訴人の平成元年分の所得税の更正処分のうち、事業所得金額四一五万九七一〇円、納付すべき税額二万九七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由欄「第二 事案の概要」(原判決四頁三行目から同四六頁六行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決添付別表一〔以下に出てくる別表一ないし八は、すべて原判決添付であるが、以下に単に「別表一」等という。〕の「審査請求」欄の平成元年分の「事業所得」欄に「4、159、710」を、同「申告納税額等」欄に「29、700」をそれぞれ加える。)。

一  同六頁七行目の「本件各更正処分」の次に「もしくは「本件各処分」」を、同八行目の「本件各更正処分等」の次に「もしくは「本件各処分」」を、同七頁三行目の「ざるそば」の次に「(以下、そば〔沖縄そばを除く。〕自体を指すときも便宜「ざるそば」という。)を、同九行目の「存在」の付に「し」をそれぞれ加える。

二  同一〇頁三行目の「売上額の推計」を「売上額を推計すること」と、同一四頁二行目の「販売食数」を「仕入袋数」とそれぞれ改める。

三  同一六頁七行目の「四五〇円、」の次に「肉そばが五〇〇円、」を、同一七頁一行目の「不当に」の次に「恣意的にな」を、同一八頁行末の「うどんの」の次に「販売」をそれぞれ加える。

四  同一九頁四行目の「一三〇五」を「九四二」と、同五行目の「九四二」を「一三〇五」と、同二一頁七行目の「(二)」を「(三)」と、同行の「課程」を「過程」と、同九行目の「各処分」を「訴訟」とそれぞれ改める。

五  同二三頁三行目の「原告の」の次に「売上額の」を加え、同九行目の「各処分」を「訴訟」と、同二四頁九行目の「二九・八八」を「三〇・三四」とそれぞれ改める。

六  同二五頁二行目の「個別性」を「類似性」と、同七行目から八行目にかけての「補足」を「捕捉」とそれぞれ改める。

同二五頁末行の次に改行して左のとおり加える。

「所得の存在及びその金額については課税庁が立証責任を負うところ、所得は、収入金額から必要経費を控除した額をいうから、課税庁は、収入金額の存在のみならず、必要経費が被控除の主張額を超えて存在しないことの立証責任を負う。」

七  同二六頁三行目の「被告が」を「被控訴人に」と、同行及び八行目から九行目にかけての各「補足」をいずれも「捕捉」と、同二七頁四行目の「明記されてないが」を「明記されていないが」と、同七行目の「被告の」を「被控訴人は、」と、同二九頁八行目の「処分理由の主張は」を「処分理由を主張することは」とそれぞれ改める。

八  同三三頁九行目の「売上金額」を「事業所得金額」と改め、同三四頁三行目の「記載のとおりである」の次に「(但し、昭和六二年分のざるそば小の仕入れ欄に「3864袋」とあるのを「3876袋」と改める。)」を加える。

九  同三六頁二行目の「肉そば、」の次に「牛肉そば、」を加え、同三七頁九行目及び一〇行目の各「推計時」の前に、いずれも「本件訴訟における」を加える。

一〇  同三八頁二行目の「推計時の」を「本件各係争年分の」と改める。

一一  同四二頁六行目冒頭から同八行目末尾までを「控訴人の本件各係争年分の特別経費の額は、実額で算定した別表四記載の給与賃金及び減価償却費の額を合計した金額であり、別表二〈6〉「特別経費の額」欄記載のとおりである。」と改める。

一二  同四四頁末行の「賃金に」を「賃金の」と、「小額」を「少額」と、同四五頁二行目の「本件各処分」を「本件各更正処分等」とそれぞれ改める。

一三  同四六頁六行目の次に改行して左のとおり加える。

「3 手続的瑕疵

審査裁決の理由附記の趣旨は、審査手続を念頭に置いたものであって、その後の段階である取消し訴訟における主張の追加変更についてまでも附加理由の拘束力を拡大しようとするものではない。また、裁決の拘束力は、原処分の取消し又は変更裁決の実効性を保障するための効力であるから、審査庁が審査請求を棄却し又は却下するに当たり、いかなる判断をし、いかなる理由を附記しようと、税務署長を拘束するものではない。したがって、課税処分取消訴訟において、審査裁決に附記された理由と異なる理由を主張することは何ら差し支えないというべきである。」

第三争点に対する判断

一  推計課税の必要性について

当裁判所も推計の必要性があるものと認めるが、その理由は、原判決四六頁九行目から同四九頁二行目までの記載と同じであるから、これを引用する。

二  推計課税の合理性について

1  被控訴人は、被控訴人が把握した控訴人のめんの仕入量を基礎にして求めた年間食数に売上単価を乗じて売上金額を算出し、その売上金額に類似同業者の売上総利益率を乗じて売上総利益を求め、その売上総利益から右売上金額に類似同業者の一般経費率を乗じて算出した一般経費と実額の特別経費をそれぞれ控除して、控除人の本件各係争年分の事業所得金額を算出している。

そこで、被控訴人の右推計方法に合理性があるか否かを検討する。

2  めんの仕入量の推計について

(一) めんの仕入量についての被控訴人の調査内容は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決五一頁六行目から同五四頁五行目までの記載と同じであるから、これを引用する。

(1) 同五一頁九行目の「新垣事務官は、」の次に「平成二年五月一五日」を、同一〇行目の「聴取したので、」の次に「同月一七日」をそれぞれ加える。

(2) 同五二頁三行目の「調査担当者」の次に「である大蔵事務官」を、同八行目の「九か月分(」の次に「五月、」を加える。

(3) 同五三頁五行目冒頭の前に「右回答書の意見欄には、販売数量の記載の全くない昭和六二年分及び右三か月分を除き記載のない昭和六三年分の調査二対するオキコの意見として、売上伝票等が紛失(昭和六三年分については一部紛失)しているが、販売数量は平成元年度と大きな変化はない旨の記載がある。」を、同六行目の「先に判明していた」の次に「平成元年の」それぞれ加える。

(二) これに対し、控訴人は、ざるそば及びうどんは、昭和六三年四月にオキコから仕入れを始めたから、被控訴人が昭和六二年及び昭和六三年一月から三月までの間のざるそば及びうどんの仕入量を推計して算出しているのは、推計の基礎事実に誤りがあると主張する。

ところで、味好の店内の壁には、メニューを表示したボードがかけられているが、右ボードには、沖縄そばのメニュー九品目の写真と値段のほか、一見して後から貼ったと思われるうどんの写真と値段が表示されており、その左側の壁にざるそば及びうどんの写真と値段が貼っていること(甲二号証ないし四号証)、控訴人が以前使用していた注文書の中には、ざるそば及びうどんが記載されていないものがあること(甲五号証)等に照らすと、控訴人は、現在の肩書住所地で営業を開始した昭和五七年六月(原審承認松川節子)当初はざるそば及びうどんを販売しておらず、その後販売を始めたことが認められる。

そして、原審証人松川節子は、「オキコの前に取引のあった普天間そばからは、ざるそば及びうどんを仕入れておらず、オキコとの取引開始後に、ざるそば及びうどんを仕入れた。オキコの社員である新里康男から、オキコとの取引は、昭和六一年末ころ開始し、ざるそば及びうどんの仕入れは、昭和六三年四月ころから始まったことを聞いた。」旨証言し、オキコの社員である当審証人下地一男及び同新里康男は、「昭和六二年末ころ控訴人と取引を開始し、昭和六三年四月ころ(証人新里)もしくは同年夏前ころ(証人下地)ざるそば及びうどんを販売するようになった。」旨各証言する。

しかしながら、オキコの前記回答書の意見欄に記載された意見は、実際にはオキコの総務部長代理であった小橋川共政(以下「小橋川」という。)が記載したものであるが、同人が直接自分で調べたのではなく、直接の担当者であるめん事業部統括課長の右下地及びめん事業部外食課長の右新里の両名から話を聞いて記載したものである(甲一六号証)。そうであれば、事情を良く知っているはずの右両名は、当時右小橋川に、右意見欄記載のとおり(前認定)述べたものであって、昭和六二年及び昭和六三年一月から三月までの間、ざるそば及びうどんを販売していないとは述べていないものと推認できる。また、原審証人松川節子は、新里から、オキコは、ざるそばやうどんも取り扱っているからと勧誘され、仕入先を普天間そばからオキコに変更した旨証言しているが、そうであれば、オキコとの取引を開始したという昭和六一年末ころから一年以上も経過した後にざるそば及びうどんを仕入れるというのは不自然であり、むしろ少なくともオキコと取引を開始したころにざるそば及びうどんを仕入れ始めたものと認めるのが相当であり、同証人の証言を前提としても、ざるそば及びうどんの取引開始は昭和六一年末ころということになる。さらに、被訴訟人所部係官であった与那嶺敬が、昭和六二年六月三〇日ころ、控訴人の所得税を調査するため控訴人方へ臨場して、節子に質問した際に作成したメモには、「そばの仕入先、オキコそば、二年近く」と記載されている(乙二八号証)。他方、前記下地及び新里両証人は、客観的な資料に基づいて証言しているのではなく、記憶に基づいて証言しているというのであり、控訴人とオキコとの取引開始時期について、新里から聞いたという前記松川節子の証言ともくいちがっている。これらの諸点を総合考慮すると、被控訴人が昭和六二年及び昭和六三年一月から三月までの間、ざるそば及びうどんの仕入れがあったことを前提として、めんの仕入量を推計したことに誤りはなくこれに反する右松川、下地及び新里の各証言は採用できない。

(三) 控訴人は、めんの仕入量を示す資料が昭和六二年分については全く存在せず、昭和六三年分についてはわずか三か月分しかないのであるから、右両年におけるめんの仕入量を推計することは不可能であるにもかかわらず、被控訴人が前記のような推計をしたことには、合理性が認められないと主張する。

ところで、推計による課税は、直接資料がないため実額による所得の把握ができない場合において、租税負担の公平上更正又は決定を放棄することは許されないことから、やむを得ず間接資料により所得を推計しようとするものである。したがって、推計課税は、課税庁が入手し得た限られた資料を基礎として、所得の実額に近似する値を求めて課税するものであるから、それに相応しい程度の推計の合理性が認められれば足りるというべきである。

これを本件についてみるに、被控訴人は、前認定のとおり本件各係争年分についてめんの仕入量を把握できない部分があったので、把握できた仕入量を利用して、把握できなかった部分の仕入量を推計したものであるが、前記オキコからの調査照会回答書(乙五号証の一及び二)に、昭和六二年分及び昭和六三年分の販売数量について、いずれも平成元年と大きな変化はないと記載されていること、本件各係争年は、近接しているうえ、本件各係争年を通じて控訴人の営業条件に特段の変化があったことを窺わせる証拠がないこと等に照らすと、被控訴人が入手し得た資料を基礎として、前記のとおり推計した被控訴人の推計方法には合理性があるというべきである。

控訴人は、乙五号証の一ないし三の作成者である小橋川は、直接の担当者でないこと、その意見欄の大きな変化はないという記載は曖昧であるうえ、乙五号証の三には、「平成元年五月、八月、九月分の販売数量は、他の月と大きな変化はない。」との記載があるが、平成元年の五月分と一二月分とのざるそばの仕入量には四倍以上の差があること、年度が異なれば、仕入量は、必ずしも同一ではないこと等から正確性、信用性に乏しいと主張する。

しかしながら、前記のとおり小橋川はオキコの販売担当者から聞いた結果を記載したものであるから、同人自身が直接の担当者でないからといって正確性、信用性に乏しいということはできない。また、厳密に調査すれば、仕入量が毎年全く同じであるとは必ずしもいえないが、前述した推計課税の性質上、推計方法が一般的にみて合理的であり、真実の所得金額と合致する蓋然性であると認められれば、推計の合理性があると解されるところ、右オキコの解答に加え、前述したように、本件各係争年は、近接しているうえ、本件各係争年を通じて控訴人の営業条件に顕著な変化があることが窺えない状況に照らすと、控訴人が右合理性を覆す事情を主張、立証しない限り、被控訴人の推計には合理性があるというべきである。そして、右推計結果をみても、別表二のとおり、本件各係争年の推計仕入量は、各年毎に異なっており、しかも、その差異は、大きな変化はないという右記載と矛盾しないことに照らすと、右合理性を覆う事情の立証があったとはいえない。なお、控訴人の平成元年五月分と一二月分とのざるそばの仕入量には四倍以上の差があるという主張は、平成元年五月分は、資料がなく明らかではないから、この主張の趣旨は明らかではないが、同年分については、仕入量が把握できなかったのは五年分だけであり、同年分のうち、五月分、八月分、九月分の販売数量について、いずれも他の月と大きな変化がないとの記載は、推計をするうえで格別意味を持たない(控訴人も、平成元年分については被控訴人と同様の推計方法を主張している。)。

したがって、控訴人の右主張は採用できない。

(四) 控訴人は、昭和六三年分のめんの仕入量の算出方法について、平成元年の一か月平均と、昭和六三年の一か月平均との比率を求め、これを平成元年の仕入量に乗じるという方法を主張するが、右方法は、昭和六三年分についてわずか三か月分の資料により平均を算出するものであり、より合理的な推計方法であるとはいえない。

(五) 以上のとおり、めんの仕入量についての被控訴人の推計方法には、合理性があるというべきである。

3  販売食数及び販売単位の算出について

(一) 被控訴人が行った販売食数及び販売単位についての調査、推計方法は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決六一頁四行目から同六三頁末行までの記載と同じであるから、これを引用する。

(1) 同六一頁六行目の「被告は、新垣事務官が」を「新垣事務官は」と、同八行目の「オキコは、」から同一〇行目の「うかがわれた。」までを「松田事務官は、オキコが、控訴人に対し、特別注文により沖縄そば三キログラム入りの袋を販売していることから、沖縄そば一杯分を三〇〇グラムとして一〇杯に分けて使用しているのではないかと考えた。」と、同末行の「何件」を「何軒」とそれぞれ改める。

(2) 同六二頁四行目の「前記(一)」を「前記2(一)」と改める。

(3) 同六三頁四行目の「お子様そば(」の次に「本件訴訟の」を、同九行目の「それぞれ」の次に「本件訴訟の」を、同末行の「推定販売単価」の次に「本件訴訟の」を、同末行の「推定販売単価」の次に「(ざるそば(小)は四二〇円、ざるそば(大)は五七〇円、うどんは四〇〇円)」をそれぞれ加える。

(二) 控訴人は、〈1〉被控訴人が沖縄そばの販売食数及び販売単価を算出するに当たって、お子様そば、大盛そば及び焼そばを販売品目から除外したことは、何ら合理的根拠がなく、不当に恣意的な基礎資料の除外である、〈2〉控訴人がざるそば及びうどんについて、一食当たりに使用するグラム数は、被控訴人が推計したグラム数より多いから、販売食数の基礎事実を誤認している、〈3〉沖縄そば、ざるそば及びうどんの実際の販売単価は、前記第二の二(控訴人の主張)1(一)(2)記載のとおり、被控訴人の推計より下回るから販売単価の基礎事実を誤認している、〈4〉本件各係争年から原処分調査時に至るまでの間に、販売価格の変動があったにもかかわらず、被控訴人は、本件各係争年から原処分調査時に至るまでの間に、販売価格の変動はないという前提で推計しており、また、原処分の調査時にすべてのメニューの単価を調査することは極めて容易であったにもかかわらず、ソーキそばの単価の変動のみを基礎資料としてめんの販売単価を推計することには合理性がないと主張する。

しかしながら、右〈1〉の点については、被控訴人がお子様そば、大盛そば及び焼そばを除外した理由は、一人前のめんの使用量を推定できなかったからであり(前認定)、右のような事実から右三品目を除外して推計したとしても、恣意的な基礎資料の排除であるとはいえない。控訴人は、右三品目のめんの使用量については、被控訴人側で控訴人や従業員に聞き取り調査等をすれば、容易に判断するはずであると主張するが、前記一の推計の必要性についての項で判示したとおり、控訴人側は、被控訴人の調査に対し、非協力的であったことが認められるから、到底容易に判明する状況にあったとはいえない。

右〈2〉の点については、控訴人は、ざるそばについては、二〇〇グラム入りのものと三六〇グラム入りのものを仕入れていたから(乙五号証の二及び三、原審証人松田昌)、一人前一袋として前者をざるそば(小)に、後者をざるそば(大)にそれぞれ使用していたと推認することは合理的である。

原審証人松川節子は、「ざるそば(小)については、一食当たり二三〇から二五〇グラムのめんを、ざるそば(大)については、一食当たり四五〇から四六〇グラムのめんをそれぞれ使用している。」旨証言する。しかし、同証人は、当初「ざるそば(小)は、二三〇グラム入りの一袋をそのまま一食分として使用する。ざるそば(大)は、一食分として二袋使用するが、一袋二二〇グラム入りのものと二三〇グラム入りのものとあるので、四五〇から四六〇グラムのめんを使用する。」と証言していた(第九回証拠調期日)第一〇回証拠調期日では、「ざるそば(小)については、オキコが持ってくる一袋二〇〇グラム入りのものでは少ないので、二〇〇グラム入りの袋から三〇ないし五〇グラム取り出し、それと二〇〇グラム入りの一袋を合わせて使っていた。一袋には、たまには二三〇グラム入っし、証言内容に矛盾があること、一食当たりのめんの使用量が二三〇から二五〇グラムと幅があるのは、飲食店の販売の仕方として不自然であること等に照らすと、右松川証言はたやすく採用きない。

また、うどん一袋の量については、原審証人松田昌の証言によれば、オキコの領収書には二〇〇グラムと印刷されているが、これを消して二五〇グラムと記載されているものもあることが認められ、実態は必ずしも明らかではないが(なお、弁論の全趣旨によれば、被控訴人がオキコへの照会書(乙四号証)に、うどん二〇〇グラムと記載しているのは、特定のための記載にすぎないことが認められる。)、被控訴人は、一袋を一人前として販売しているものと推認して販売食数を算定しているから、グラム数の多寡は影響しないというべきである。

原審証人松川節子は、うどんについて、当初「仕入れた一袋二五〇グラム入りのものをそのまま一食分として使用する。一袋二五〇グラム入のものがなくて、一袋四〇〇グラム入のものを使用する場合もあるが、その場合は、客によってそのまま使用する場合もあるし、切って二五〇グラム位の量にして使い、残りは短くなると、屑みたいで客に好まれないので捨てる場合が多い。」と証言していた(第九回証拠調期日)が、第一〇回証拠調期日では、「前回証言した一袋二五〇グラム入りということはなく、二〇〇グラム入りであるが、それでは少ないから、それに足して二五〇グラムにして客に出している。それで問題ないときもあるが、客から短すぎると言われる場合もあるので、二〇〇グラム入りのものの半分を切って足す場合が普通である。」と証言し、うどんの点についても証言が一貫しておらず、採用できない。

控訴人は、ざるそば及びうどんの一食当たりのめんの使用量についても、被控訴人側で控訴人や従業員に聞き取り調査等をすれば、容易に判明するはずであると主張するが、これについての判断は、前述したとおりである。

右〈3〉の点について、原審証人松川節子は、「昭和五七年に現在地で営業を開始した当初の沖縄そばの値段は、甲四号証の写真に写っているボードに記載された値段(甲五号証の注文書に記載された値段も同じ)である。その後、ソーキそばを四五〇円から五〇〇円に、大盛そばを六〇〇円から六五〇円に、野菜いためを五〇〇から五五〇円にそれぞれ値上げし、それ以外の品目については値上げせずに甲五号証の注文書に記載した値段で販売していた時期があり、その当時の値段を記載した注文書があった。昭和六三年四月からざるそば及びうどんの販売を開始したが、平成元年四月に消費税が実施されたことにより、消費税分として野菜いため以外のメニューに二〇円を上乗せし、その値段を記載したのが甲六号証である。」旨証言する。

しかし、本件係争年分より古い注文書である甲五号証が提出されており、また、本件係争年分より後のものであると主張する注文書が証拠として提出されているにもかかわらず、本件係争年分に係る販売単価が記載されていると主張する注文書だけが提出されていないのは、不自然であること、また、右松川証言は、甲五号証ないし八号証の注文書、五号証と六号証の間に作成された注文書がそれぞれどの時期に使用されたものであるかを明確に特定できないうえ、消費税導入後に売上単価を値上げした時期についても、消費税導入後半年から一年近く後とか平成二年四月ころと曖昧であること等に照らすと、右松川証言は採用できない。

右〈4〉の点について、控訴人は、平成二年から平成五年の間にソーキそばが八〇円値上げされていることからすれば、原処分調査担当者が調査した平成元年末ころから平成二年五月ころにかけての価格と本件各係争年の間に販売価格の変動がないとする合理的根拠はなく、かえって値段の変動があったものと推認できると主張するが、平成二年から平成五年の間にソーキそばが八〇円値上げされているからといって、直ちに本件各係争年から原処分調査時の間に値段の変動があったものと推認することはできず、変動があったことを示す客観的証拠がない以上、値段の変動がないものとして推計することには合理性があるというべきである。

また、控訴人は、原処分の調査時に、味好の全メニューの単価を調査することは、極めて容易であったにもかかわらず、ソーキそばの値段の変動のみを基礎として、めん類の販売単価を推計することには合理性がないと主張するが、調査が容易でないことは、前述したとおりである。

そして、被控訴人が推計した本件各係争年分のざるそば及びうどんの単価は、甲六号証記載の単価と一致し、沖縄そばについては、同号証のお子様そば、大盛そば及び焼そばを除いた六品目の平均売上単価五〇三円とほぼ一致することに照らし、合理的であるというべきである。

4  売上金額から売上総利益及び一般経費を推計する場合の合理性

当裁判所も、売上金額から売上利益及び一般経費を推計するのに被控訴人が採用した推計方法には、合理性があると認めるが、その理由は、次のとおり加除、訂正するほかは、原判決六五頁九行目から同七一頁二行目までの記載と同じであるから、これを引用する。

(一) 同六五頁九行目の「四号証」を削り、同六六頁一行目の「北那覇税務署長」の次に「、」を加える。

(二) 同六九頁四行目の「ところで、」から七一頁二行目末尾までを左のとおり改める。

「控訴人は、前記第二の二(控訴人の主張)1(三)(1)(類似同業者の資料の正確性)及び(2)(同業者の類似性)記載のとおり主張する。

そこで、右(1)の点について検討するのに、本件訴訟における推計に当たって類似同業者として抽出された別表三の同業者Aは、沖縄税務署管内の業者であるところ、原処分時に使用した同業者も、同じ沖縄税務署管内の業者であるうえ、本件各係争年分に係る売上金額は、同一であること(甲一、乙一の1、2)に徴すると、両者は同一の業者であると推認される。しかるところ、原処分及び本件裁決において採用された右業者の最終所得率と本件訴訟において示された右業者の数値(別表三の売上金額、売上総利益等)から計算した最終所得率とを比較すると、確かに両者は異なっていることが認められ、右違いが生じた原因は、必ずしも明らかではない。しかし、右業者の売上金額等の金額は、前認定のとおり、申告の内容の正確性ないし信用性が制度上一応担保されている青色申告書の資料を用いているうえ、売上金額のほか、売上総利益、一般経費、特別経費について具体的な数値を挙げていること(なお、被控訴人は、別表三の同業者Aの特別経費の金額から利子割引料の金額を差し引いてAの最終所得率を算出すると、原処分時の同業者の最終所得率と一致すると主張し、それが原因であるとすれば、了解可能であり、基礎資料の信用性には直接影響しない。)等に照らすと、右最終所得率が異なっているからといって直ちに比準となる基礎資料が不正確であることにはならないというべきである。

右(2)の点については、本件訴訟における推計の歳に抽出された同業者は、別表三のとおり昭和六二年分について二件、昭和六三年分及び平成元年分についてそれぞれ三件ではあるが、本件は、右以外に、同一もしくは隣接地区に前記抽出基準に該当する類似同業者がいない場合であるから(乙一号証ないし三号証の各一、二)、恣意的に抽出したものでは、抽出課程に合理性が認められること、また、前記抽出基準は、類似性を判別する用件として合理的なものであり、抽出された同業者の売上総利益率、一般経費率には、控訴人の不利に作用する程の著しい偏差は認められず、類似性がある認められるから、右軒数であれば、一応同業者の個別性を平均化するに足りるものといえること(なお、控訴人は、控訴人の推計方法によれば、類似同業者の中に控訴人の売上額の倍を超える業者が混入していると主張するが、控訴人の右推計方法は、前述したとおり採用できないから、失当である。)等に照らすと、本件においては、控訴人が主張するように控訴人と同業者との間に右類似性の程度を上回る厳格な類似性が必要であるとまではいえない。

なお、控訴人は、同業者の最終所得率と被控訴人が推計した金額による控訴人の最終所得率を比較すると、控訴人は、同業者の中でも最も最終所得率が高い別表三の同業者Aの四倍も高い最終所得率であり、同業者Cと比較すると、一三倍近くも最終所得率が高くなると主張する。

しかしながら、一般経費と違って必ずしも売上金額等と相関関係がなくむしろ、個別的色彩の強い特別経費について、控訴人と同業者を比較してみると、控訴人の方が著しく少ないことが認められる(これは、控訴人には、類似同業者にあるような地代家賃や利子割引料がないこと〔原審証人松川節子、弁論の全趣旨〕等によるものと推認される。)。そうすると、最終所得率が控訴人主張のとおり異なっているからといって、類似性を欠くことにはならいいというべきである。」

5  特別経費の算出について

(一) 被控訴人は、控訴人の本件各係争年分に係る給与賃金及び減価償却費が特別経費に当たるとして、実額により計算しているので、以下検討する。

(1) 給与賃金

ア 甲一三ないし一五号証、乙一一ないし一三号証、原審証人松田昌及び同松川節子の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人が、本件各係争年分の所得税の確定申告の歳に、被控訴人に提出した青色申告決算書(甲一三ないし一五号証)の各給与賃金欄には、従業員に対する給与賃金の内訳として、次のとおりの記載があり、控訴人が、実際に賃金として支払ったことが認められる。

〈1〉 昭和六二年分

豊里玉子、金城トヨ、福田フミ子及び宜保美枝子の賃金合計四二六万円

〈2〉 昭和六三年分

豊里玉子、宜保美枝子、亀谷貞子及び齋藤愛子の賃金合計四八二万円

〈3〉 平成元年分

宜保美枝子、亀谷貞子及び齋藤愛子その他二名分の賃金合計三九九万円

イ 控訴人は、収入と必要経費のいずれについても課税庁が立証責任を負うから、被控訴人において特別経費について実額立証をする場合には、被控訴人の主張する特別経費について捕捉もれが存在しないことまでを立証しなければならないと、被控訴人の主張する給与賃金以外にも、アルバイト、バートの人件費が発生していると主張する。

そこで検討するのに、控訴人は、被控訴人に提出した青色申告決算書(甲一三ないし一五号証)の各給与賃金欄に、前認定のとおりの給与賃金を記載して申告しているのであるから、被控訴人が右給与賃金以外には、給与賃金が存在しないものとして推計課税を行うことには、合理性があるというべきである。したがって、控訴人が自ら申告した給与賃金の額を上回る給与賃金の額を上回る給与賃金があるとして実額の主張をし、右合理性を覆すためには、公平の見地、立証の難易等の観点からも、単に被控訴人の主張する額以外にも経費が存在する疑いを生ぜしめただけでは足りず、右実額を合理的な疑いを容れない程度に立証する責任があるものと解するのが相当である。

そして、控訴人の右主張に沿う証拠として、原審証人松川節子は、控訴人の店舗では、青色申告書に記載した従業員以外に、平均してパートが三人、アルバイトが二、三人おり、パートには平均して月に約七、八万円を、アルバイトには約四、五万円を支払っていた旨証言し、右証言の裏付けとして、以下のような従業員の証明書、陳述書、証言等があるので、これについて検討する。

〈1〉 甲一七号証と当審証人亀谷貞子の証言では、同人は、昭和六〇年から控訴人方で働いており、控訴人の青色申告決算書に記載のない昭和六二年分の給与額は、年間で一二〇万円余りというのであるが、正確な金額は明らかでないうえ、客観的な帳簿書類等右証言を裏付ける証拠はない。また、同人が昭和六二年に勤務していたのであれば、何故同年の青色申告決算書に記載しなかったのか疑問であり、これについての証人松川節子の説明にも納得しうるものがない。

〈2〉 甲一八号証と当審証人齋藤愛子の証言では、同人は、昭和六〇年から控訴人方で働いており、控訴人の青色申告決算書に記載のない昭和六二年分の給与額はについては、覚えていないというのであるが、これについても、右〈1〉と同様の疑問点がある。

〈3〉 甲一九号証には、安里シズ子は、昭和六〇年ころから平成三年ころまで働いており、給与は八万円であると記載されているが、乙二九号証の一には、本件各係争年の自給がいくらであるか覚えていないという記載があるうえ、やはり右〈1〉と同様の疑問点がある。

〈4〉 甲二〇号証には、大城厚子は、昭和六一年ころから平成元年ころまで働いており、給与は八万円であると記載されており、当審証人齋藤愛子も自分が働いていた間、大城厚子も働いていたと証言するが、乙二九号証の二によれば、大城厚子も働いていたと証言するが、乙二九号証の二に依れば、大城厚子には、昭和六三年に生まれた子供がいるところ、同号証の一には、昭和六三年に生まれた子供が四歳になった平成四年ころから約三年間働いていたという記載があることや右〈1〉と同様の疑問点に照らすと、本件係争年に働いていたという右各証拠を直ちに採用することはできない。

〈5〉 甲二一号証には、古波蔵春子は、昭和六一年ころから平成五年ころまでアルバイトで勤務しており、給与は八万円であると記載されており、当審証人亀谷貞子及び同齋藤愛子も自分が働いていた間、古波蔵春子も働いていたと証言するが、乙二九号証の一によれば、自分の記憶では、平成四年ころから平成七年ころまで働いていたが、平成四年以前にも働いていたような気もするのではっきりいえないとの記載があり、曖昧であることや右〈1〉の疑問点に照らすと、本件係争年に働いていたという右各証拠を直ち採用することはできない。

〈6〉 甲二二号証には、山城美代子は、昭和六一年ころから平成元年ころまでアルバイトで勤務しており、給与は六万円であると記載されているが、乙二九号証の一には、同人の夫は、右期間は専業主婦であったと述べている記載がある一方、同人自身は、右期間も働いていたと述べている記載があり、相反する記載があること、乙二九号証の三によれば、同人は、昭和六三年五月五日と平成元年七月一九日に出産していること、さらに、右〈1〉の疑問点があること等に照らすと、本件係争年に働いていたという右各証拠を直ちに採用することはできない。

以上のとおり、控訴人の主張を裏付ける客観的な帳簿書類等はないうえ、控訴人の主張に沿う前掲各証拠には、前述した疑問点ないし問題点があること等照らすと、被控訴人が認定した給与賃金を上回る人件費の実額の立証があったとはいえない。

2 減価償却費

当裁判所の減価償却費についての認定及び判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決七五頁八行目から同八一頁三行目までの記載と同じであるから、これを引用する。

ア 同七五頁九行目の「一七、」の次に「二〇号証の一、二、」を加え、同行の「二〇号証の一ないし三、」を「二一号証の一ないし三、」と改める。

イ 同七六頁一行目の「一号」を「一一号証」と改める。

ウ 同七八頁五行目の「一七、」の次に「二〇号証の一、二、」を加え、同行の「二〇号証の一ないし三、」を「二一号証の一ないし三、」と改める。

エ 同八〇頁四行目の「別紙六のとおりである」の次に「(但し、別紙3とあるのは、いずれも別表五と改める。)」を加える。

(二) 控訴人は、前記第二の二(控訴人の主張)1(三)(3)(同業者率の利用方法の不当性)記載のとおり主張するが、これについての当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決八一頁末行から八三頁四行目までの記載と同じであるから、これを引用する。

同八二頁六行目の「所得を推計する方法として」の次に「控訴人主張の最終所得推計方式よりは」を加え、同一〇行目の「給与賃金」を「給与賃金」と改め、同末行の「認められない」の次に「(原審証人松川節子、弁論の全趣旨)」を加える。

(三) なお、控訴人は、本件各係争年分のうち昭和六三年分については推計不能であり、昭和六三年分及び平成元年分についての推計所得金額は、別表八のとおりであると主張するが、資料が乏しいからといって課税を行わないことが租税負担の公平の見地から許されないことはもとより当然であり、また、これまでの検討の結果から明らかなように、その推計方法は合理的であるとはいえない。

6  以上のとおり、被控訴人が行った本件推計課税は、推計の必要性及び推計の合理性が認められるところ、これによると、本件係争年分の控訴人の事業所得金額は、別表二〈7〉「事業所得」欄記載のとおり、昭和六二年分が一四二七万四五六一円、昭和六三年分が一四一一万一五七一円、平成元年分が一五三三万三三三三円と認められる。

三  手続的瑕疵の主張(処分理由の差し替え)について

控訴人の手続的瑕疵の主張についての当裁判所の判断は、原判決八三頁一一行目から同八六頁一行目まで記載のとおりであるから、これを引用する(但し、同八五頁七行目の「異議申立て」を「異議決定書」と改める。)。

四  以上の次第で、本件各係争年分における本件係争年分に係る控訴人の事務所得金額は、本件推計により算定した前記事業所得金額の範囲内であって、これを上回るものではなく、また、手続的な違法も認められない。したがって、本件各更正処分に違法な点はなく、また、これに基づく本件賦課決定処分適法である。

よって控訴人の本訴請求は理由がないからいずれも棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当あって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩谷憲一 裁判官 角隆博 裁判官 伊名波宏仁)

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